SoS小話その2

 最後に見たのは、見開かれた眼の、男の子の顔。

 やっと、「お父さん」と呼んでくれるようになったあの子の、泣き出す寸前と事態に惚けたのを足して割った顔。

 幸せにしてやれなかった、唯一人血を分けた子供。

 次に見たのは、青年の顔。

 あの子の面影が色濃く残るその青年は、涙を流す事無く慟哭していた。

   ごめんなさい。

   助けられなくて、ごめんなさい。

 泣かなくていいんだよ。

 お前は何も悪く無い。

 そう伝えてやりたいのに、私は何も出来ない。

 でも。

 もしも、もう一度、機会があるなら。

「悪魔の手から逃げ出したいんですが、手を貸して貰えませんか?」

 そう言って来た、何時の間にか背後に立っていた青年。

 今更だなあと思いつつ、彼に手を差し出した。

Monologue by  ??

 私と剛が、滝さんと言う人に引き取られたのは、剛が三歳、私は五歳の時。

 父と別れた母が、程なく病気に倒れ、儚くなってしまった後、父にお金を貸していると言う人達が押し寄せた。

 その人達は、私と剛を離れ離れにすると言った。

 今にして思うと、私達を所謂非合法組織を介して売り飛ばすつもりだったらしい。恐らく、私は性的暴行目的、弟は人体実験だったろうか。

 彼らがどんな目的だったかは、まあ今だから察せられる事であるけど。

 そんな、文字通り非合法な人々の集団を蹴散らしたのが滝さんだった。

 あの人達と、滝さん、そして『会長さん』とがどんな話し合いをしたのかは判らないけど、私達は今も、極普通の生活をしている。

 義兄弟の大半が『仮面ライダー』であると言う一点を除いて。

Monologue by Kiriko Shijima

 その日、火神家のダイニングキッチンでは凄惨な光景が繰り広げられていた。

 ショートカットとロングヘア、二人の美少女が突っ伏している。その前には、妖気すら漂うカレーと呼ぶのもおこがましい、野菜のごった煮のぶっかけ飯が鎮座している。

 そんな二人を、紅い巻き毛の女性がお玉を鞭のようにピタピタさせつつ、それこそ鬼軍曹が二等兵を見る目で見下ろしている。

「はい、二人共。自分で作ったもののお味は?」

「う、あ……」

「あうあうあう」

「栄養士として、勉強している人間として、言わせて頂戴。

 食べ物で遊ぶんじゃない」

 ドスの利いた女性の声に、何とか戻ってきたショートカットの少女――相田リコは反論を試みた。

「わ、私、食べ物で遊んで何か」

「料理にサプリとプロテインぶち込んでいる時点で遊んでるでしょ?」

 ギチギチと、音を立てて睨み付ける年上の、序に初対面の女性に口を閉じる。

「普通はね、食事で栄養を摂って、それでも足りないミネラルやビタミン類を補う為にサプリは飲むものなの。

 ふりかけの代わりにプロテインやサプリぶっかけて、それで栄養が取れるなら栄養士なんて職分が成立する訳無いでしょう。

 大体、加熱しちゃ駄目なプロテインを熱々の料理にぶち込んだら、その時点でプロテインの組織が壊れて使い物にならなくなってるわよ?

 そもそも、自分が食べられないものを他人に食べさす事自体非常識だし? あんたもそこの子も、蓋然性(プロバビリティ)殺人でも目論んでるの? 内臓を痛めてガンでも誘発させる気? 栄養学を雑誌斜め読みで身に付けられると思ったら、大間違いよ?」

 畳み掛けられ、リコもロングヘアの少女――桃井さつきも涙目だ。

 普段なら、彼女達を庇う日向順平はバッテン印のマスクを付けられ正座中、黒子テツヤの方は『同居人』レイヴに主導権を奪われ頭の中で怒鳴っている状態だ。

 火神家の正規の住民はと言うと、黙々と夕食を幼馴染みとその連れとともに製作中だ。

「いや、誠凛の監督さんの料理がとんでもないのは知ってたし、真ちゃんの同中のあの子がダーク・マター製造機なのは聞いてたけどさ」

「サツキちゃんは、集めた情報を頭で捏ねくり倒して作って、味見はダイキにばかりさせてたらしいからなあ。あいつ、味覚おかしくなってないと良いけど。

 だけど、こんな近在に同じようなダーク・マターメイカーが居たとはなあ。世間は狭いわ」

「scary. しかし、テト姉あんなに怖かったっけ?」

 大我の呟きに、黒と灰色の二人は一瞬目を見交わし、こう言った。

「食い物絡みだからだよ、テト姉ちゃんが怖いのは」

「お前がアメリカ行って、カズナリが来て二年ぐらい立った頃に、双子の女の子が半年ほど引き取られたんだけど、この子達がものすっごい料理下手でさ。その子達の作った料理食べて、海斗兄ちゃんと空兄ちゃんが緊急搬送される騒ぎになって」

「ご飯は漂白剤で洗うし、緑色に変色したじゃが芋を皮剥かずに料理するし、野菜サラダにトマトの葉っぱ使っててさ、俺知らなかったけど、トマトの葉っぱって、毒持ってるんだって」

「Oh……」

「あれ以来、テト姉栄養士の資格とそっち系の勉強始めたんだ」

「食べ物で遊ぶような奴は撲滅だって」

 ……因みに、年少者達には伏せられているものの、この双子が実は滝和也暗殺を狙って派遣された某国議員の刺客であり、事態を知った某女性怪人集団によって依頼主ごと、二度と日の目を見られない生活を送っているらしい。

 勿論、死んだ訳ではなく、タコ部屋送りになっているそうだ。

   「生産者に顔向けできないものを食べ物と言い張るなんて、いい度胸だわ。

    あたしが目一杯鍛え直してあげる」   by Tetsuko Kasane.

 暑苦しいお節介、人間なのに怪人に挑み、自分達を人間と呼ぶ、理解の範疇の外にいる人物。

 それが、風見志郎を始めとした人と自分達との間に線引きした面子の、滝和也への印象だ。

 猪突猛進に見えて、極短時間で現状で取れる最善の行動を決断し、味方は懐に入れる事に躊躇がないが、敵と見なした相手は徹底的に(相手に気取らせず)警戒する。

 結城丈二は、極短い共闘で滝和也をそうプロファイリングした。

 無茶な人で、優しい人。仮面ライダー二号が、散々扱き下ろしておいて最後に必ず「あいつがいたから戦えた」と、とても穏やかな眼で話す人。

 筑波洋にとって、滝和也は慕っている先輩の思い出の一部だった。

 笑ったり、怒ったり、泣いたりまた笑って、コロコロ表情の変わる人だ。殺意を向けた自分に怖じる事無く、またパーフェクトサイボーグである自分に戦闘訓練を付けるような無茶をする。あの人の笑顔に、俺もルミも救われた。

 村雨良にとって、滝和也は師匠であり兄のような存在である。

 東京で、SPIRITS隊と合流して以来、滝和也と言う人間を落ち着いて視る事になった。

 ある日、 SPIRITS隊隊員同士で喧嘩が起きそうになった。

 金髪碧眼の青年と、黒髪黒い目の青年は互いに相手の襟元を掴み、今にも殴り合う寸前にヒートアップしていた。

 問題は、二人がマシンガンの如き勢いで喚き合うお国言葉を、ヒアリング出来る人間が居ないと言う事態だった。

 否、片方は副隊長のアンリ曰く、ガスコーニュ州のかなり癖の強い、土地の人間でなければ聞き取りの難しいお国言葉であるとの事だ。そして残念な事に、アンリでは彼の言葉を聞き取り切れなかった。

 問題は、もう片方の吃音の激しい言語を理解どころか、聞き取る事が出来ないのだ。

 已むを得ず、ライダーならヒアリング出来るだろうとその辺を彷徨く暇ライダーが召喚されたのだ。

 だがまず、城茂が真っ先に匙を投げた。一応大学生ではあったが体育会系だった彼は、純戦闘型であった事もあり世界共通語である英語やドイツ語、北京語辺りは自動翻訳機に突っ込んでいたものの、それ以外はさっぱり判らないのだ。

 同じような理屈で、英語やドイツ語の専門用語辞書は充実させていたが特定地域独自の言語までは網羅していなかった沖一也もギブアップした。

 神敬介は、ガスコーニュ語の方は辛うじて翻訳出来るものの、爆音のような舌鋒に食いつく暇がない状態だ。

「良く解りますね、神さん」

ガスコーニュ語に似たビスケー語って奴がスペイン語のバリエーションにあったから、何とか。

 でも、あんな勢いに割り込むには、翻訳速度がなあ……」

「ねえ、先輩、あの金髪の彼、音が跳ねるタイミングが、アマゾン先輩に似てませんか?」

 こう言い出したのは、情報収集とハンググライダーの大会の為世界の山岳帯に良く行く筑波だ。

 それなりに、辺境地の住人らと交流も少なくない筑波が指摘したことで、アマゾンを探せと言う騒ぎになったその時だった。

『おう兄弟、何の騒ぎだこりゃあよう?』

 不意の声に、黒髪側が言葉を呑み込んだ。同じ声が、今度は吃音混じりで話し出す。

《なしてそだ人と揉めてンだ、おめ?》

《だども大将、こいつおらが飯取っちまっただで!》

『兄弟、こいつ他所のグループの者だろう。何してンだ、おら』

『だってこいつ、皿に泥盛ってやがったんですぜ、隊長!』

 指差された先に、確かに粘土状の何かと乾燥ジャガイモらしい何かがあった。

《こりゃあ、家からの仕送りか?》

《だよ》

 納得した様子で頷くと、黒髪の青年に向かってこう返す。

『こいつは南米の出でな。あっちはミネラル摂取の為ミネラル質の粘土を乾燥芋と一緒に食う食習慣があるんだ』

『えぇ』

『故郷の味って奴さね、兄弟。ガスコンの名物を余所もんに否定されりゃ、お前さんも腹立つだろうよ、なあ、兄弟』

『あ、』

《おめ、許せ。こん人は海向こうの人だで、おめのおっ母が気遣いわがんなかったがよ、おらが教えたで、赦してけれ?》

《ンだども……》

《おらに免じて、な》

『おら兄弟、こいつの為に怒ってんだろが、泥を盛るくらい疲れたのかってよ。

 でもよ、間違ってンなら謝ろうぜ。そんくらいの懐の広さ、ガスコンの男なら持っててあたりめえだろよ?』

 そうして二人に握手させると、滝和也は周囲でポカンと成り行きを見ていた隊員とライダー達に笑って言った。

「おう、騒がせたな、もう大丈夫だから」

「あの滝さん、二人が何で喧嘩してたのか、いや、二人の言ってる事、判ったんですか!?」

おっかなびっくり問い掛けた敬介に、けろっとした顔で頷いた。

ガスコーニュの山側出身の兄ちゃんが、ウルグアイ山間部出の兄ちゃんの実家からの差し入れを見て、勘違いしただけさ。

 ヒートアップしていた所為で、お互いお国言葉しか出なくなったから、引っ込みが付かなくなってたんだろうな」

 そう言うと、呆気に捕らわれるライダーと隊員達にひらっと手を振り、滝はその場を去った。

 一文字隼人曰く。

「滝?

 ああ、そう言えば昔から言語に堪能だったよあいつ。確か、エジプタスの事件の時、古代エジプト文字見てエジプタスってすぐ読んだし。

 ……え? あれってICPOの必須技能じゃないの?」

   滝和也と言う男  1

 その日、未確認生命体――グロンギの起こした殺人ゲームによって、とある高校の一クラスが壊滅した。

 アギトこと滝海斗、クウガこと一文字空、二人の奮闘にも拘らず、の結果だ。

 目に見えて落ち込んでいる空の方はともかく、気遣って来る弟達に笑顔を向ける海斗を見て、アラン・ホークアイは夕食の後、滝家の長男を呼び出した。

 海斗を自家用のスポーツカーに乗せて、連れて来たのは海浜公園。

 海に面した、遊歩道に海斗を連れて来た金髪の青年は、戸惑っている少年にこう言った。

「ここで泣きなさい。

 ここなら、空君も閃君も、ちびちゃん達もいない」

 言われて、海斗の目からボロッと涙が零れ落ちた。

 ガードレールに手を付き、嗚咽を漏らし始めた少年の背に、ホークアイは言葉を付け足す。

「私はジュースを買ってくる。

 その間に、声を出して泣きなさい」

 背を向け歩き出すと、背後からわーーー!と声が上がる。泣き叫び始めた少年を、改造人間の視力で見詰め、改めて歩き始める。

 本当に、父親そっくりだ。

 香港での、三ヶ月の研修。

 その時、アメリカ人で上流階級の同世代位の青年達の犯罪に傷付いた滝和也を、プロムナードで海に向かって泣くように言った。

 飽きるまで泣いたら、次の事件に備えて終わった事件を引きずるなと、言い含めて。

 泣き続ける声を聴きつつ、ゆっくり300メートル先の自販機に向かう。

 未成年に、煙草を勧める訳にはいかないのが、心から残念だと思った。

     Memories of Hong Kong

 滝和也。

 FBIの捜査官であり、ICPOに出向してショッカーゲルショッカー壊滅の任に就いていた。

 但し、彼の経歴で判っている事はそれだけだ。

 本人曰く、「戻ってから閑職に回されたからなあ。所謂窓際だ」と、あっけらかんと笑ってそれ以上話そうとはしない。

 そして、彼の正確な所属を知る者は、SPIRITS隊には存在しない。

「わ!?」

「どうした筑波!」

 後輩の声に驚き、振り返った城茂が見たものは、ゴードンと共に箱を移動させていた筑波洋が、箱の中に入っていた猫にびっくりしている光景だった。

 猫と言っても、掌に納まるような仔猫ではなく、みっちりと箱に納まった大猫が不機嫌そうにミャオゥと鳴いた。

「びっくりしたあ、こんなところに猫がいるなんて」

「け、好い気なもんだなあ、猫って奴はよお」

 そう言って鼻を鳴らしたゴードンを見て、ロシアンブルーらしい艶やかな毛並みの猫は殊更低い声で鳴いた。その、猫らしからぬ剣呑な視線に、思わず筑波が猫に手を伸ばそうとした、その時だった。

「アル、アレックス、此処にいたのか、お前」

  グルナン

 不意に響いた声に、大猫は先ほどまでの不機嫌さは何処へやら、甘く鳴いてするっと箱から出ると、とことこと声の主へと歩み寄る。

 大猫を抱き上げたのは、SPIRITS隊隊長滝和也だった。

「お前らなあ、此処は危ないから来るなっつったのに。まさか、ふぐ猫達まで連れて来てないよな?」

 ウナン

 すりすりと滝の頬にすり寄る猫の姿に、仮面ライダーである二人の肩から力が抜け、チーム随一の巨漢は鼻を鳴らした。

「おい隊長、それあんたの猫かよ」

「俺の猫、じゃねえよ。友達なんだ。飼い主はちゃんといるから」

「あ、じゃあ飼い主のところに連れて行きましょうか?」

 筑波が猫の安全の為にそう申し出ると、滝は一瞬目を丸くして、苦笑いを浮かべた。

「ありがとう、でもこいつらは好きにさせてやってくれ、大丈夫、危険を察知すればこいつらは賢いからちゃんと逃げるよ」

「こいつらって、他にもいるのかよ」

「うん、ああクジャ、ケークス、移動するぞ」

  ウナン

  アオン

 ゴードンの横のに積まれた段ボールから、最初の猫と負けず劣らずの大猫が二匹、ぬるりと出て来るとそのまま滝の脚にすり寄り、一匹は飛び上がって彼の肩で襟巻宜しく身体を伸ばした。

 足元にいるもう一匹を抱き上げ、滝は猫に向かってこう言った。

「大丈夫、あのデカいのは口が悪いだけ、あの二人は『犯罪被害者』で、お前達のターゲットじゃない」

「「え!?」」

「あん?」

 戸惑う三人に対し、それまで興味を向けていた猫達は、滝の言葉でふっと眼を逸らした。

「何だ、ありゃあ」

「俺達が知るかよ」

 猫達の反応に、ゴードンが鼻を鳴らし、茂が興味ないと頭を掻く。

 だが、何とも言えない空気を感じて、筑波だけは猫を抱いて出て行く滝の背中を見ていた。

 騒ぎが起こったのは、その三日後だった。

 緑川ルリ子と彼女に従う形で科学者の一団とその護衛とが合流したのだが、その護衛や科学者の一部と、基地に詰める形になっている実働隊の第10分隊の隊員とが揉めたのだ。

 実働隊を見下す科学者と、彼らを護衛する元軍人の集団とある意味混成部隊――悪く言うなら愚連隊である――第10分隊の主要メンバーとがギスギスし始めていたのだが、それがついに爆発する形になったのだ。

 こんな表現は何だが、エリート上がりの集団である新規の護衛チームからすると、元軍人はともかく、傭兵とか警察官などは話にならないと言うのが言い分だった。

 そんなこんなで実働隊を馬鹿にしていた軍人と、学者の一人がこう言い放ったのだ。

「伝説の捜査官だか何だか知らないが、そもそも奴は、国家反逆罪で収監されていたんじゃないか、どんな裏取引をして出て来たんだか」

「全くだ、大体あの男本当にFBI捜査官なのか? 少なくとも、捜査部に奴の名前は無かったがな」

 大声でそう言って笑い転げる男達に、分隊の面子の額に青筋が浮かぶ。

 彼らの言葉に、ライダー達は顔を見合わせたが、奥に立つ1号2号が放つ殺気に一気にざざっと後ろに下がった。

 無表情だがあからさまに空気が殺気立っている1号本郷猛と、笑顔だが顔にうっすらと傷跡が浮かび上がりつつある2号一文字隼人の姿に、後輩達も息を呑む。

 だが、その嗤い転げる男達の背後から、飄々とした声が響いた。

「確かに俺は今捜査部じゃなくてUIU所属だが、れっきとしたFBIの人間だよ。どの辺調べたかは知らないが、無恥晒すのどうかと思うぜ?」

「「な!?」」

「隊長」

「「滝」」

 戦闘服姿でやって来た滝は、溜息と共に男達に身分証を見せると、じろっと視線を向けた。

 ぽかんと見つめる者、気まずそうに眼を逸らす者と居る中、滝は今声高に喋っていた東洋人二人を見詰め、にいっと口の端を上げた。

「よう、ここ三日間観察させて貰ったが、新人と古参とがギスってるところに必ず居るな、お前さん達。

何処の人間か知らないし知る気も無いが、ここが曲がりなりにも前線基地だって事は判ってるんだよな」

「ちッ、偉そうに」

 ぼそっと呟いた学者に、ケラっと笑って滝はこう告げる。曰く、

「お前さんからしたら不審人物だとしても、俺はICPOからの依頼を受けて隊長職やってんだ、一応命令には従って貰いたいんだがな。

 それに、ちゃんと仕事をこなしてくれるなら、機密漏洩と守秘義務違反に目を瞑っても良かったんだが、でもまあ、お前さん達『敵』だから、こっちに従う筈も無い、よなあ」

 その次の瞬間、彼らの周囲にあった小箱や袋から、ざっと六匹の大きな猫が飛び出し、あっという間に二人に襲い掛かると、見ていた人間全員が凍り付く中床に引き倒した。

 そして、そのまま放置されていた大きなズタ袋へと猫達は男達を引きずり込んだ。

 はっと我に返ったウェイ・ペイと、筑波洋とが慌てて袋を広げて見たが、そこには人間も猫もいなかった。

 滝はと言うと、あの二人が立っていた場所に落ちていた銃を、白いハンカチで包むようにして拾い上げていた。

「た、隊長、今のは」

「悪いが、あいつらの自室にしてた部屋を調べてくれ。多分、大したものは出てこないと思うが、念の為な」

「おい、今人間が二人、消えて」

「大丈夫、一〇分ほど引き回したら、ここに戻すようあいつらには言い含めておいたから」

「おい、」

 焦る隊員達に少しも動じず、滝は同じく呆然と事態を見ている親友の、小柄な方を呼んだ。

「隼人、お前こいつに見覚えないか?」

「え、どういう事よ、滝」

「俺は、こいつと似た物をガモンで見たけどな」

 ハンカチ越しに掴んだ拳銃を見せつつ肩を竦めた滝に、近付いた一文字隼人は顔色を変えた。

「おい、これ!」

「おうよ、グエン将軍の軍団が使ってた火器類の、拳銃型だな。

 つまりあいつらは、バダン、またはそれに類する犯罪組織、あるいはそいつらに資金や武器を提供している連中が送り込んだ不穏分子だったって事さ」

 隊長である男の言葉に、思わずその周囲の人間が黙り込んだ。

 そこに、別の場所にいた隊員が三人ほど、息せき切って駆け込んで来た。勿論、

「た、隊長、でっかい猫が、人間を袋の中に引きずり込んで、そのまま」

「消えたんだろう? 大丈夫、そろそろここに戻って来るから、あ、ウェイ・ペイ、筑波その袋から離れろ、牽かれるぞ」

 滝がそう言ったその次の瞬間、猫の集団に引きずられ、ボロ雑巾のような姿で七人の男女が袋から飛び出し、転がされた。服に残った記章から判断するに、女性と男二人が学者サイドで、残りは警備チームの人間であると知れた。

 自分達の体感は一〇分程度だったが、引き摺り回された方は分単位では無かった様子で、衣類はボロボロ、手足胴体には肉が削げたような傷も多々見えた。

 その、傷からは血にしては妙に明るい赤の液体が溢れ、神経や骨の代わりに配線と金属フレームが覗いていた。

 思わず殺気立つ隊員やライダー達を背に、滝は屈んで己を睨もうとする男に視線を合わせた。

「よう、異次元旅行は楽しかったか?

 猫達はお前らをあそこに置き去りにするつもりだったから、無理を頼んで連れて帰って貰ったんだ。お前らには、色々聞き取りしたいしな」

「き、きさ、ま」

「何だ、こんな反撃は想定外だってか?

 俺はお前らからすれば、頭の悪い落ちこぼれ捜査官だろうがな、あいにく昔から友人には恵まれててな。

 こんな危ない場所に、会いに来てくれる程度には、俺、愛されてるから」

 そう言って邪気無くにっこりと笑うと、滝は周囲に改造人間用の拘束具で七人を捕らえ収容するよう声を掛けた。

 我に返った隊員達が、慌てて七人を拘束し運び出すのを、ライダー達はそれこそ呆然と眺め、そして奇異なものを見る目で滝の方を見た。そんな後輩共の脚を、一文字は思いっ切り踏み躙った。

「痛い! 痛いです一文字さん!」

「何すんすか、あんた!」

「べっつにい、俺の親友を変な目で見た事に怒ってるだけだしい」

「こら、隼人、後輩いじめるんじゃねえよ」

 沖一也、城茂の脚を踏んだ友人の頭を撫でると、滝は甘えてくる大猫達に纏わり付かれつつ背を伸ばした。

「さーてと、色々報告書かかなきゃな」

「報告って、」

「そりゃお前、未遂とは言え内部工作を図っていた所属不明の不審人物が七人も見付かったんだ、やらなきゃいけない事はたくさんだぜ?」

 そう言って、手をひらっと振って出て行こうとした滝の背中に、筑波洋は慌てて声をぶつけた。

「あの、滝さん、つかぬ事を窺いますが、この猫達の名前、何て言うんですか!?

 あ、個々の名前じゃなくて、種族名と言うか何と言うか」

 すぐ下の後輩の言葉に、茂は「何言ってんだお前」と言う顔をしたが、滝の方は少し考えた後、悪戯っぽく笑ってこう告げた。

「ん? ああ、種族って言うかなんて言うか、こいつらの事は『Кот в мешке』って呼んでるよ。

 ああ、報告書の前にルリ子さんに説明しなきゃなあ、ああ、めんどくせえ」

 そしてそのまま出て行った滝を見送る筑波は、まさかと言う顔になり、一文字は相棒である本郷を振り返った。

 その向こう側で、沖一也が首を捻った。

「えー、『正体不明』って、一体」

「沖、知ってるのか?」

「いえ、お世話になったスタッフにロシア系が居たので意味が判っただけで」

「都市伝説です」

 口元を手で押さえ、筑波洋が語って曰く。

「確か、ロシアで飼われている猫が、何故かアメリカのとある研究施設に現れるんだそうです、箱とか、袋とか、棚の中とか、鍵が掛かっていた筈の鞄の中とか。

 そして、その猫達と行き会う人間は大抵、そこの組織に対して叛意を抱いていたり、敵対行動を取ろうとしている人間で、猫達にいきなり何処ともつかない場所に連れ浚われるって。

 まさか、現実だったなんて」

 ……滝和也が、国家反逆罪に問われ、形ばかりの裁判の後死刑宣告を受け、執行三日前にSCP財団にDクラス職員として確保された事。

 その後様々な実験より生還を果たし、また冤罪であった事を某SCPによって証明された彼が、UIU所属と言う形で戸籍とFBI職員としての身分を復活させた事を、仮面ライダー一号二号は、未だに知らない。

   滝和也と言う男  2

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